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本質を見失ったAO入試制度―対策可能なAO入試に意味があるのかー

日本 時事ニュース

 初の東京大学推薦入試の結果発表が行われました。177人の受験者、100人の定員枠にもかかわらず、77人のみしか合格者しか出なかったことは東大の良心でしょう。この77人の合格者のうち、13人もの合格者を出した塾が存在するようです。そしてその塾に対してヘイトが噴出しています。「AO入試なんて裏口じゃん」こんな声が出てきています。しかし、本当に悪いのは対策塾なのでしょうか。対策塾の功罪をみるだけでよいのでしょうか。学問ではなく、特定分野において才覚を持つ人を選抜する制度である筈のAO入試。その本質を考え、国と大学と対策塾、そして受験生について考えていかなければ、このAO入試制度の問題点は明らかにはならないでしょう。

 

 

ーー目次ーー

AO入試対策塾の暗躍
➁なぜ面接官は対策塾の生徒を選んでしまうのか
➂アメリカっぽい入試制度への漠然としたあこがれ
AO入試はどうあるべきなのか

ーーーーーー

 


AO入試対策塾の暗躍

 AO入試とは、「出願者自身の人物像を学校側の求める学生像(アドミッション・ポリシー)と照らし合わせて合否を決める入試方法」であり、学力テストで埋もれてしまう一芸に秀でた能力を持った人を、選抜する試験形態の事を指します。大学審議会がどのようにAO入試を位置づけているかというと、

 大学審議会が「大学入試の改善について(答申)」の3章2節「アド ミッション・オフィス入試の適正かつ円滑な推進」のなかでAO入試を「選抜方法の多 様化、評価尺度の多元化」に資するものと位置づけた。そして、AO入試には「明確な定義はなく、その具体的な内容は各大学の創意工夫にゆだねられている。このため、現在では大学自らがアドミッション・オフィス入試と呼称しているものがそれであるという状況にある」としたうえで、一般的にはAO入試はアメリカのように「アドミッション・オフィスなる機関が行う入試というよりは、学力検査に偏ることなく詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせることによって、受験生の能力・適性や学習に対する意欲、目的意識等を総合的に判定しようとするきめ細かな選抜方法の一つとして受け止められている」としている。

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 このように掲げられています。しかしながら、現在、大学側は丁寧な面接をとることなく一度の面接によって合否を決めています。この制度的な欠落をついているのが、AO入試対策塾なのです。

 受験生としては、なんとしてでもAO入試を突破したい。そのために、様々な実績を積んでいるけれども、不安である。もし対策できるのであれば、それに飛びつきたい。こういったニーズに対応してAO入試対策塾*2はサービスを提供します。実際、早稲田塾城南予備校等もAO入試に関するサービスを提供していますが、AO義塾と呼ばれるAO入試対策専門塾が圧倒的合格率を誇っていることは有名でしょう。

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このように、慶應大学の推薦入試においては合格率83%を計上し、

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東大推薦入試の77人のうち13人がこの塾出身であることが分かります。

 どうしてAO義塾がこのように独占できるのでしょうか。理由は三つ考えられます。

a)AO入試が対策可能な試験である

 AO入試は対策可能な試験です。たった一回の提出書類と、一回の面接。もちろんその過程に論述試験であったり学力試験を挟むことはあるでしょうが、基本的に少ない労力で合格を勝ち取ることが出来る試験形態です。私の聞いた話では、ある高校では対策ノウハウが確立されているため合格実績が7割以上だとか。高校レベルで7割を超えるのであれば、AO入試に特化した形態の塾であれば、当たり前のように合格実績を上げることが出来るでしょう。合格者がここまでいるAO義塾です。きっと内部事情だけでなく、どのようにすれば受かるまで把握しているのでしょう。

b)競合が少ない

 このように推薦入試は対策可能な試験だ!とは言うものの、まだ推薦入試を選ぶ生徒はこの日本において少ないです。普通の高校であれば、一般受験を勧めます。そのため、各予備校が推薦入試のための講座を開いていますが、絶対数が少なく、ノウハウが蓄積されない。ノウハウが蓄積されないから合格実績も中々伸びないという悪循環に陥りがちです。そのため、競合が少ないといえるでしょう。とはいうものの、今後、各大学が推薦入試を導入する動きを見せているので、5年、10年以内には、競合だらけの業界になりそうですが。

c)無料授業を行っている

 AO義塾ではことあるごとに無料授業を行っています。例えば、今回の東大の推薦対策については、

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このように、入試開始初年度ということもあって対策は無料という手法を使っています。b)で述べたように、競合が少ない推薦入試業界においては、無料かつ良いサービスを提供するAO義塾に受験生が飛びつくという構造が出来ています。ここから察するに、優秀な生徒には授業料減額のような措置を取っているのではないでしょうか。各種予備校におけるスカラシップ制度と同様の制度です。

 と、このように対策可能すぎて、何が才能ある人を選抜する制度だというような推薦入試ですが、どうして面接官は対策塾の生徒ばかりを選んでしまうのでしょうか。

 


➁なぜ面接官は対策塾の生徒ばかり選んでしまうのだろうか

 考えられる要因としては、

a)AO入試黎明期だから、どんな生徒を採用すればいいかわからない。だから、いわゆるハキハキと喋るような、自信があって、自分のやりたい事があって、あたかも大学の人材にマッチしているように振舞うことが出来る生徒を合格にしてしまう。

b)一回の面接であるところが多く、一回であるから一人ないし三人程度の面接官でその生徒の採用/不採用を決定しなければならない。であるため、その面接官の嗜好やらが反映されるし、一回の面接でよいパフォーマンスをした受験生を合格にしてしまう。

c)東大の推薦入試制度はともかくとして、慶應AO入試の場合、もともと一般受験および内部進学で大量の入学者がいます。そのため、推薦入試ではちょっと見劣りするにしても実績であったり、とがっている人材であれば合格を出してしまう傾向にあると考えられます。

 

そもそも、面接官がきちんと選抜できない可能性のあるAO入試ないし推薦入試は何故導入されたのでしょうか?

 

➂アメリカっぽい入試制度への漠然としたあこがれ

 1990年代以前の日本社会においては、詰め込み型教育が席巻していました。いわゆる受験戦争とよばれていた時代で、その時代の反省を踏まえて、推薦入試等が検討された経緯があります。

AO入試が急増した背景には、1990年代後半以降の高等教育行政の転換がある。1997年に中央教育審議会は「21世紀を展望した我が国の教育のあり方について(第二次答申)」を出し、その2章2節「大学入学者選抜の改善」において、「学力試験を偏重する入学者選抜を改め、能力・適性や意欲・関心などを多角的に評価するため、選抜方法の多様化、評価尺度の多元化に一層努めることが必要」であり、「 特に、調査書、小論文、面接、実技検査、推薦文などを活用し、総合的かつ多面的な評価を重視するなど丁寧な選抜を行っていくこと」を大学入試に求めた。そして、アメリカのアドミッション・オフィスを参考としつつも、日本の大学の特性を踏まえた「日本型」AO入試のあり方を検討していく必要性を述べた

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  結局アメリカのアドミッションオフィス形式を参考にしつつ、日本の大学の特性を踏まえようとした結果が今のAO入試制度なのです。大学にとって、いいとこどりをしたかのように思えたAO入試制度ですが、面接官にはそのノウハウは存在せず、受験産業化してしまい、対策可能になってしまった。推薦入試は受験における新たな選択肢にすぎなくなってしまったというのが今の状況でしょう。

 このような状況では、AO入試の本質を違えてしまっています。むしろ、導入しない方がいいくらいでしょうか。しかし、一度導入してしまった制度を撤廃することは、導入することよりも多大な労力を必要とします。むしろ、いまあるAO入試制度をよりよりものとするにはどうすればいいかを考えるべきでしょう。

 


AO入試はどうあるべきなのか

 

 現行のAO入試の欠落点は、一人あたりの面接官にかかる労力が大きく、また、時間が限られていることが挙げられるでしょう。そのほかにも色々な問題を孕んでいます。どのようにすれば解決しうるのでしょうか。

a)本質に沿った面接内容にする 

 既存の面接方法にケチをつけるわけではないですが、AO入試の本質を深く考え抜く必要があるでしょう。とはいうものの、具体的な部分は各大学によって変わってくるので割愛します。

b)一人の受験生に対して面接官の人数を増やす

 面接官の人数が増えれば増えるほど、推薦入試の質は向上します。大学側の人員は確かに少ないかもしれませんが、現状より増やすことは可能でしょう。その上で、増えた人数での合意形成のルール化も必要でしょうが。様々な角度からその生徒を見ることによって、本当の意味での入試が可能となります。公平性も担保されるので、一般受験性からのヘイトも和らぐでしょう。

c)複数回の面接

 同時に、一度の面接ではなく、複数回の面接をするとよいでしょう。ある意味、就職活動に似ているかもしれません。さすがにグループディスカッション等を課すのは筋違いでしょうが、リクルート面接のように、ラフな場所でラフな話合いをすることが出来る機会を設ける、集団で面接をしてみる等は検討してみてもいいのではないでしょうか。医学部の編入試験であるような、二日間かけておこなう入試スタイルもいいかもしれません。なによりも、受験生の本質を見極める必要があるでしょう。

 

 推薦入試は一般受験よりも簡単であるというような風潮があり、受験生が蔑まれてしまったりする傾向がある一方で、推薦で入学した生徒が本当に力を持っていると尊敬されたりします。また、世間ではAO入試対策塾に対する風当たりも強いようです。しかし、本当に考えるべきなのは、AO入試を導入した国の意図であり、導入した大学であり、受験する生徒でしょう。AO入試という試験スタイルが、蔑みややっかみの対象でなくなることを切に願います。

 

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